会社辞める時はどんな時?

はじめに
「会社を辞めるのはどんな時?」――雇用する側にとって、ここは本当に見えにくい領域です。
退職代行で一気に連絡が来るケースは、「合わなかった」という整理がしやすく、むしろ対応は明快です。いちばん難しいのは、理由がはっきり見えない退職。給与・賞与・手当・待遇・評価・人間関係・労働環境…多くの要素が複雑に絡み、人によって何を重視するかが違うからです。
本記事では、雇用主の立場から“見えない理由”を構造化し、就業規則と面接運用で未然にズレを減らす実務ポイントをまとめます。
退職の主なパターンを「見える化」する
1. ミスマッチ型(価値観・仕事内容)
- 仕事内容や裁量、評価の軸が本人の期待とズレていた
- チームの働き方・コミュニケーションが合わなかった
2. 条件不満型(処遇・環境)
- 給与・賞与・手当・インセンティブ・評価基準が不透明
- 勤務地・シフト・残業・休日運用・在宅可否などの環境要因
3. 成長・キャリア型(前向き離職)
- 新しい挑戦、専門性の追求、ライフイベントによる方向転換
4. 健康・家庭都合型
- 健康状態の変化、介護・育児など
ポイント:同じ「退職」でも根っこは違います。採用前〜配属初期の段階で、**本人の重視軸(収入・裁量・安定・成長・人間関係・働く場所)**を具体的にすり合わせておくことが重要です。
「退職代行」へのスタンス
退職代行の連絡は、会社側にとって感情的になりがちですが、事務手続きとして淡々と対応するのが最善です。
- 連絡窓口を一本化(人事代表メールなど)
- 受領後の返却物・最終出勤/欠勤扱い・清算方法を定型文で即時案内
- 社内向けには事実のみ共有(憶測の共有は厳禁)
合わなかったケースは「やるべき対応をやって終える」。会社にとっても本人にとっても、無理を続けることが一番よくないという前提で運用しましょう。
まず整えるべきは「就業規則」と「運用マニュアル」
「だいたい労働基準(法や指針)に答えがある」――これはその通りです。
重要なのは、自社の実態に合わせて就業規則を具体化し、現場が“覚えるくらい見る”こと。面接でも、就業規則の該当箇所を“見せながら”説明すると格段に納得されます。
就業規則の必須チェック(雇用主向け)
- 労働時間・休憩・休日:所定・法定の扱い、シフト作成手順、残業の事前承認
- 賃金:基本給と各種手当の定義、締め支払い、遅刻/早退/欠勤の控除基準
- 評価・昇給・賞与:評価の観点・時期・反映方法、等級の考え方
- 休暇:年次有給の付与・取得方法、その他特別休暇の条件
- ハラスメント窓口:相談〜調査〜是正のフロー
- 退職・解雇:自己都合/会社都合の区分、退職手続き、返却物、競業/守秘の取り扱い
- 安全衛生:健康診断、深夜労働・妊産婦配慮など
- 懲戒:類型・手続き・相当性の担保
運用の肝:紙に書いて終わりにしない。面接・入社オリエンテーション・配属時説明・1on1の各場面で、関連ページを必ず画面で見せて確認する運用を決めましょう。
面接〜入社初期に「ズレ」を減らす実務
面接で使う“見せながら”台本(サンプル)
- 勤務時間と残業の運用(就業規則○ページを表示)
- 評価サイクルと昇給の決まり(評価表のサンプルを見せる)
- 給与内訳と手当定義(求人票と就業規則の対応を示す)
- 休日・シフトの決め方(直近のカレンダー例を提示)
- 試用期間の目的と合否基準(合否判定書の項目を公開)
- 退職時の流れ(返却物・清算項目のチェックリストを先に見せる)
先に見せるほど信頼される:後出しでトラブルになりやすい部分ほど、採用段階で明文化して提示するのがコツ。
それでも合わない時の“やることリスト”
- 週次/隔週の1on1でサインを早期発見(不満・不安・期待の言語化)
- 配置転換や業務再設計の選択肢を提案(合意できるKPIを再設定)
- 退職の意思が固い場合は、法令と就業規則に沿って手続きを案内
- 最終日のハンドオーバーは書面で(業務棚卸し・権限移譲・返却物)
- ネガティブ情報の社内拡散を防止(最小限の事実共有のみ)
大事なのは、“やるべきことをやった”という証跡。感情ではなく手順で進めることが、残るメンバーの信頼にもつながります。
現場で使えるテンプレ(社内共有用に編集してOK)
1)退職手続きチェックリスト(抜粋)
- 退職意思表示の受領・日付記録
- 返却物:PC・端末・鍵・カード・機密資料
- アカウント停止:メール/各SaaS/権限棚卸し
- 最終給与・清算:未払残業・有休残・交通費
- 取引先/社内への周知テンプレ送付
2)面接時の確認シート(抜粋)
- 収入の重視度(固定/変動/賞与/インセンティブ)
- 働き方の重視度(時間/場所/裁量/チーム)
- キャリア期待(役割・スキル・期間)
- フィードバック頻度の希望
- NG条件(できないこと・やりたくないこと)
まとめ
それでも合わない時は、手順で淡々と。やるべきことをやっていれば、無理に合わせる必要はありません。無理はお互いにとって一番よくない――この原則で運用しましょう。
退職の理由は人それぞれ。給与・評価・環境などの重みづけが違うから、採用前から“見せながら”期待値をそろえることが最重要。
就業規則は自社実態に合わせて具体化し、現場が覚えるくらい使う。面接・配属時に実物を提示して説明するだけで、ミスマッチは大きく減ります。
